2015年7月24日金曜日

くら寿司の、やけにアンビエントなBGMが気になったから

くら寿司へ良く行く。
週一回くらい、くら寿司へ行き、寿司を喰らう。

くら寿司とは言わずもがな、全国チェーン展開している回転寿司屋である。
見回すとその客層は幅広いことが分かる。家族連れ、子どもの叫び声があがる。サークル帰りの大学生グループ、ウェイウェイ嬌声をあげる。スウェットのカップル、無言である。しなびた老夫婦、流れる皿に目もくれずスタッフを呼ぶ。ひと皿100円からという世界はグルグルと混沌としており、楽しいのに拭えない日常臭さがグルグルと混ざりあう。なんとも言えない独特の空気の対流を生む。
勿論わたしも例外でなく、疲れたアラサーの社会人という立場でその回転の一部に混ざりあっているのだ。

ここ一〜二年くらいか、そのくら寿司にさらなる異変が起きている。というのも、そのBGM。やけに、アンビエントな音楽が流れているのである。

シンセサイザーの音に、水や風の自然を利用した効果音。浮遊感があるそのメロディは、そのまま浮遊して行って、大気圏を超え宇宙まで到達してしまうような、バッキバキのアンビエントな音楽なのだ。
なんだろう、この音楽は?
なぜ、くら寿司でこんなアンビエントが流れているのか?

 
ところでそもそも、最近良く聞くようになったがアンビエントとは何だろう。

”アンビエント(ambient)は、英語で「周囲の」、「環境の」という意味。”
Wikipediaより
 
ちまたじゃ若い子がアンビエントがアンビエントがと口を揃えて言う音楽、本当にアンビエントが分かっているのかと問いたい。わたし?わたしは勿論アンビエントのことは良く存じております。
ただ残念ながら、アンビエント・ミュージックはアンビエントであるがゆえに、そもそも簡単に言葉じゃ説明できないものでございます。
え?じゃあアンビエントの代表アーティストをあげてみろって?

えぇ〜と、その、
あれは何て読むのかな、ア、ア、アーフェックスツインとかですかね。
 


▲Aphextwin

ごめんなさい。知りません。アンビエントが何たるかなんて分かりません。
「良く分からないけどなんか浮遊感があって格好いい音楽」は全部アンビエントだと思っています。でも、あながち間違ってもないとは思います。

それにしてもアンビエントはズルい。アンビエントという響きからそもそもずるい。格好良さが滲み出ているからズルい。

例えば、
女「音楽やってるの?どんな音楽??」
男「アンビエントかな」
これだけで格好良くなるからアンビエントはズルい。

女「えー!なんか良く分からないけど格好いいね!」
必ずこんな会話が繰り広げられるから、アンビエントはズルい。

わたしもアンビエントをもっと理解したい。そして格好良くなりたい。
そう思った私は、youtubeの検索窓に(アンビエント)と入力し上から聴いていくことにする。便利な世の中になったと思う。youtubeを流すだけでアンビエントを聴くことが出来るようになったんだから。そうして聴いた音楽がAphextwinである。
「Aphextwin?あー聴いたことあるよ」と言えるのだからyoutubeは便利である。ただし読み方は調べておかないと、先ほどのような失態を晒すことになるので注意は必要だ。


さて、話をくら寿司に戻そう。
くら寿司で流れるアンビエントなBGMに気付いてから、気になって気になってしょうがなくなった。あのアンビエントは何なのか?
こうなっては寿司は喉を通らない、変わりに平日限定かけうどん(130円)を啜りながら、googleの検索窓に(アンビエント/くら寿司)と入力した。

しかしながら有力な情報は出てこない。ツイッターやヤフー知恵袋でも調べてみるが出てこない。
その間にも、くら寿司のアンビエントは流れ続ける。皿が流れるのとアンビエントが流れるのがリンクして、もはや居てもたっても居られなくなったが、あと一枚だけとびっくらポンの為に寿司を食べた。びっくらポンは外れた。
流れる寿司には手が届くが、流れるアンビエントには手を伸ばせば伸ばすほど浮遊して遠ざかるのだ。

お会計の時に、店員に聞いてみようかと思った。でも、きっとこの可愛い新人アルバイトに聞いても、ええっと、と言って困るだけだろうし、きっとそこに居る先輩アルバイトがあとから「お疲れ。マジで変な人が沢山来るけど、相手にしちゃだめだよ」なんて優しく言って、アンビエントな関係に発展しかねるのでそのまま帰った。

家に帰って、PCからくら寿司のサイトを開く。
さすがに自サイトからであれば何か情報を得られるだろうと思ったのだが、それは間違いで、結局どこにもアンビエントについての記載はなかった。
八方塞がりだ。不穏なアンビエントが頭に鳴り響いているようだった。気になってしょうがない。誰か、誰かー!お客様の中にアンビエントに詳しい方はいらっしゃいませんか?ああ、ありがとうございます、教えてくださるのですね。これは、一体アンビエントの何ビエントなんですか。

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気になりすぎた私は、ついにお問い合わせ窓口をノックしてしまいました。ごめんなさい。
投稿メールにはめちゃくちゃ丁寧な文章を書きましたので、聞く前に結構調べたけど分かりませんでしたので、許してください。


数日後、くら寿司から返答が来た。それはとても丁寧な、アンビエントなメールでした。

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当店の店内BGMについては、USENを利用して「ヒーリングミュージック~癒しの音楽~」チャンネルの音楽を放送させていただいております。
 少しでもお客様に気持ち良くお食事いただければという思いから、音楽の選定をしております。



▲宮下富実夫 「神」

これだ!!!!!!
くら寿司!アンビエント!くら寿司!アンビエント!!


▲宮下富実夫 「大」

宇宙!寿司!アンビエント!宇宙!寿司!アンビエント!
宇宙!寿司!アンビエント!宇宙!寿司!アンビエント!!!!


謎は全てとけた。
故 宮下富実夫の音楽だけが延々と流れるU-SENのC-19「ヒーリングミュージック~癒し音楽~」のチャンネルが、くら寿司のBGMの正体だったのだ。


▲宮下富実夫 「神秘」

アンビエントアンビエント言うてたけど、一応分類ではヒーリングミュージックになるらしい。でも、アンビエントというものがそもそも「良く分からないけどなんか浮遊感があって格好いいもの」だと私は捉えていたので、あながち間違いではないだろう。

この宇宙のような宮下富実夫を聴いていると、家に居てもくら寿司にいるような気分になる。口の中が酢飯で満たされるような、きゅんとした気分になる。

くら寿司とは宮下富実夫。宮下富実夫とは宇宙。
つまり、くら寿司とは宇宙なのである。


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今も、週一回くらい、くら寿司へ行き、寿司を喰らう。
宇宙を感じながら食べるアンビエント寿司の味が、最高に好き。

2015年2月5日木曜日

冬眠

疲弊していた。
体力的にも精神的にも、なんだか疲弊しきっていた。年が明けてから、仕事で休まることがない。休日は強制的に仕事の用事で埋まっていく。
仕事はストレスばかりだ。上から下から患者から外部から何かチクチクと言われる。「申し訳ございません」「すみません」「お願いします」「お願いします」
仕事だと言えばしょうがないし、お金は入ってくるけど、ガリガリと身を削って作ったお金だ。そしてそれは価値があるようで、自分の寿命を削ったと考えたらあまりにも自分の価値は低いかもしれない。

仕事から帰ってくると何もする気が起きない。テレビを付けてみるが、観るわけでも無い。その辺に落ちている漫画をめくってみるが、読むわけでも無い。
ネットを眺める、パワー溢れる人たちの宗教観や政治観や思想や嫉妬がドバドバと流れ込んでくる。それは川の流れのようで、水の勢いでコンクリートが削り取られていくのに似ている。どんどん自我が削り取られて行く。

なんだか良く分からないものに支配されていきそうだ。
嫌になって、早々と布団に潜り込んだ。嫌だ嫌だ。でもきっとこんな嫌な気持ちは、沢山眠ってしまえば消える。明日になれば消える。と思って目を瞑ると、疲れていたせいか直ぐに眠りに落ちて、そしてすぐに朝が来て、そこにはやっぱり疲弊した自分がいた。

何も生み出せなかった。唯一楽しみだった「書くこと」も出来ない。あんなに気合を入れて、やります、と言ったことも実現出来ていない。そんな状態のまま、グズグズともう今年も一か月が経ってしまった。


そんな中風邪を引いた。久しぶりに39℃の熱が出て、薬を飲み、朦朧としながら布団に潜り込んだ。沢山眠ったら良くなる。きっと良くなる。

そう思いたい一方で、こういう疲弊から逃れることって、どんどん困難になっていくのかもなぁと思った。快調の中にあった不調が、そのうち逆転して、不調の中に快調があるようになっていくんだろうか。それがつまり老いということで、削り取られて小さくなって、最終的に死に抗えられずに支配されてしまうのだろうか。
絶望的だ。

沢山眠ったら、明日が良い明日になっていますように。
自分が動かなければ、好転など決してしないのに、眠ることしか出来ないし、ああ、眠い。

2015年1月3日土曜日

10年前の自分からの手紙

高校の時に学年皆でタイムカプセルを埋めた。その時に手紙を書いたのだが、テーマは「28歳の自分宛ての手紙」だった。
先日同窓会があったのだが、タイムカプセルを開けてその手紙と対面したのだった。

読んでたら、青臭い。でもなんだか胸が熱くなってしまったので、恥ずかしげも無く転記しようと思う。




こんにちは、私は18歳の私です。明日は大学試験やのに、こんな手紙を書いてます(笑)落ちたら私のせいです、ごめんなさい。


ふざけてる。結局、その大学試験には落ちてしまうのに。それどころか、受ける大学受ける大学、全て落ちてしまうというのに。




ところで、どうですか?あなたは今、幸せですか??てか、生きてますか?(笑)生きてて、かつ幸せであることを願います。


何とか生きてる。幸せかどうかと言えば、どうだろう。




でも、私のことだから、28歳になっててもイロイロ悩んでるのかなぁ?もし一つでも悩みを持ってるなら、言いたいことがあります。
まず、小学校中学校のことを思い出してみてください。あの時はいっぱいしんどかったね、辛かったね。そりゃ楽しいこともあったけど、本当に辛くて毎日泣いてたなぁ…あれからちょっとの時間しか経ってないのに、18歳の私はその記憶が薄れてきています。

何が言いたいのかというと、辛いことや苦しいことはいつか必ず終わるってこと。あがいてもがいて、暗い穴から這い上がることが出来るってこと。そりゃお金とか、環境とかが関わってくるかもしれないけど…でもいつかきっと信じて足掻けば道が見えてくる。それが高校生活で得た大発見だと18歳の私は思ってます。人間って賢いから、嫌なこととか忘れるように出来てる。
でも、どんだけ年取ってもこの発見は忘れないようにしよう。頑張って嫌な場所から道を作ってきたこと、これは凄いことだから。私は凄い!

だから、負けるな。


読んでいると当時のことを思い出してきた。今から考えると子供の頃のことなんて鼻で笑えるくらいのことかもしれないが、閉鎖された学校や家庭といった空間では耐え切れない程苦しかった。そして手紙を書いてた時も、これからどころか明日もどうなるか分からない状態だった。でも例えどんな自分になろうと、少しでも生きる力になるようにと精一杯励ますつもりで書いたのだった。




〜中略〜


最後に大切な人達のこと。あなたは今、周りの人達のことをちゃんと考えられてる??酷く扱ってたら、アホや!
色々あったけど、今の私の大切な宝物は家族と友達です。でも今の私はバカでガキだから、素直になれません。
そうだ、今約束します。これから大切な人達のことを、素直に大切にしていく。「あの時ああすれば良かった」なんて28歳の私に後悔させないようにします。
他人だけじゃない。28歳までの私も大切にして、幸せにします。絶対絶対約束します。どうだ。

さあ、38歳の自分へは何を約束する?



約束は守れていなかった。周りの人達を大切には出来ず、そして後悔も多い。

幸せにする、なんて見栄を切ってるけどどうなんだろう。もう一度考える。今、幸せなんだろうか。何をしても何処へ行っても、どんなに沢山の物を手に入れても、完全に満たされる瞬間は無い。きっと、そんなものだろうけど。




このタイムカプセル、更に10年後の自分に対する手紙を書いて埋めて、また10年後に掘り出すらしい。
何を書こうか、とペンを握る。

10年後はどうなっているだろうか。母が亡くなった歳を超えてしまうので、生きているかどうかも分からない。病気になっている確率は高い。グズグズしながら歳だけ重ねて、ただ若さと勢いを失うだけで、絶望しながら過ごしているかもしれない。なんなら路頭に迷っているかもしれない。

38歳の私へ〜
書き出していると、ふと10年前の自分と重なった。10年前の自分も最悪の結果が頭をよぎった。想像したのは、結局大学に行けず、酷い男に騙されボロボロになって、路頭に迷い、今にも自殺しようとする28歳の自分の姿だった。
それに比べると、今は、まぁまぁ幸せか。10年間色々あったけど、私にしては良く頑張った。


続きを書いた。守れなかった「人を大切にすること」を約束しなおした。
そして10年後の自分が例えどんな自分になっていようと、精一杯励ましてあげようと思い、手紙を書き終えた。

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